La Semeuse

アフリカ内を行き来することや、読んだ本などについて。

【読書】 中村淳彦「東京貧困女子。」

読んでて心の底から暗くなるけれど、今を生きる日本人/日本で住む人たちはこういう現実があること、しかも「すぐそばに」あることを知った方がいいと思うから、読んでよかったし、読むべきだったし、すべての人におすすめしたい本です。

 

東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか

東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか

 

 (Kindle unlimited に入ってる…!)

 

 

今の東京で生きる女子は、ふとしたことで貧困に陥る危険と隣り合わせなんだ、ということが、これでもかというほどの実例と共に語られています。

そして、転げ落ちるきっかけは意外に些細なことで、一度転げ落ちるどんどん落ちていってと這い上がるのは難しいという。転げ落ちるきっかけがいろいろ本の中から見えてきます。

 

例えば 日本学生支援機構の貸与型奨学金の問題。実質学生ローンであると指摘され、多くの負債を抱えて卒業する学生を量産しているとの指摘で最近こそ問題になって来たけれど、それまでは国のシステムであるし、普通に高校でも推奨されていたものでたくさんの学生が借りてきたもの。一昔前は、卒業したら大体の学生がフルタイムの正規社員として会社に勤めてしばらくしたら返せていたのかもしれないけれど、一度その道を外れてしまうと返済がどうにもならず自己破産になるケースがあるなんて。そしてその借金のために風俗で働く女性の話は「なぜそうなってしまったのか?」と思わずにいられません。国の制度がそんなに落とし穴と言うのは怖いことです。

 

あと、著者が大きく警鐘を鳴らしているのが介護業界。高齢化社会への施策として国が介護職の人を増やすために、失業してハローワークに来た人をとにかく介護職トレーニングに送り、資質があるかどうかは無視して介護従事者を量産し、厳しい経営の中少しでも利益を増やそうとする民間が運営する介護施設で働く人々は疲弊していくという状況。学生時代から介護職を目指してそれにプライドを持って働いている真面目な人たちも、ひどい職場環境で、また志のない人たちの心の闇にひきずられながら心身を削られていくという悪循環の体験が生々しく書かれています。

これも「資格を取って働く」という、安定しているように見える仕事が実は(もちろん一部だけれど)落とし穴だという点で、誰でも陥る可能性があり得ることである点で怖いです。

 

さらに、官製ワーキングプアに関して、図書館司書の人の話も出てきました。司書さんも資格職で、真面目でこつこつと仕事しているのに給与は低く5年の契約が終わったらそれでおしまいで、正社員になれる道はなく、将来に不安がつきまとう。国の制度でそういった労働環境になってしまうなら、本来なら成り立たないはずなのにその仕組みを維持してしまっているゆえに、そこで働く人が生活保護と同じレベルの生活をすることになってしまう。

 

もちろん上記のすべてが、どこをとっても問題というわけではなくて、当然国の制度だからきちんと機能している部分があってこそだと思います。貸与型奨学金があったから大学に行けた人、立派な介護施設を運営し職員も不自由なく働けている場合等…

ただこれが実はすべての人には機能していなくて、落とし穴になり得るということです。

 

本当に一つ一つ、読んでいてため息が出てしまうのは、いつだれでも、むしろ真面目な人たちがそういった貧困の状況に陥ってしまい得るというのが、私が生まれ育った日本の首都、東京であるということ。そして周りに助けを求められない人がたくさんいるということ。

 

この本は女子に焦点を当てているけれど、男子にも当てはまるところはたくさんあります。でも、やっぱり女性が弱い立場だというのが否定できないのは、日本のような国では平均年収が圧倒的に女性が低いということや、シングルファーザーよりシングルマザーが圧倒的に多いこと、また家庭内暴力の被害者は大多数が女性であるということにも表れています。だから、社会のひずみが最も顕著に表れてくるのは女性で、どうしたって、弱い。 

 

(女と男の賃金格差が縮まらない2つの理由 https://president.jp/articles/-/18731 より) 

 

 

ファクトフルネスとの対比

 

読みながら、「ファクトフルネス」という本との対比をずっと考えていました。

 

ファクトフルネスは、世界のデータをきちんと見れば大抵の指標で大幅に改善がみられているのに、それでも知識層含む多くの人が、世界は悪くなっていると思ってしまっている。その背景には、メディアの報じ方や、あまり可能性の低いことに必要以上に恐怖を持ってしまう人間の性質等もあって、「分断本能」「ネガティブ本能」「恐怖本能」等それぞれ説明しながら、データを使ってその状況に一石を投じようという本です。

 

(別記事で紹介しました)

 

だから、なんだかどうしても昨今のISとか、未だに続くアフリカの貧困とか見ると、「世界は全然良くなってない」って思っちゃうけれど、実はデータで見れば、赤ちゃんの死亡率も、自然災害で亡くなる人の数も、極度の貧困に生きる人の割合も、航空機事故の確率も、数十年前よりずっと下がっていて、言ってしまえば「悪いことや悲しいことはまだまだ起こり続けるけれど、世界が悪い方向に行ってると決めつけるのは間違い」という本です。

 

ただ、世界はよくなっているのかもしれないけれど、

日本はどうだろうか、どっちかっというと悪い方に向かってるんじゃないか

って気がしてしまって、特にこの東京貧困女子。を読んでいる時それが頭から離れませんでした。

 

もちろん、何をもってして「良くなってる/悪くなってる」なんて一概には言えないものの、

日本が一億総中流なんて言ってたのは今は昔、

平均年収は下がっていて、

貧困家庭が増えていて、

格差が広がっていて、

シングルマザーは苦しく、

ワーキングプアが多数いて、

ジェンダー平等は多くの国に遅れを取っていて、

 (2018年日本のジェンダーギャップ指数は149カ国中110位)

超高齢化社会で、

自殺者も多く、

テクノロジー面でもかつてほどの存在感はなく…

 

そんな中、東京貧困女子。の現実をつきつけられると、日本って国は「かつて世界に憧れた国ではもはやない」というかそれどころか、いろんな面で歪みが表面化して、社会が立ち行かなくなっていっているのでは、とネガティブ思考に陥っていってしまいます。

 

 

でも、今が底だと思いたい

 

ただ、もしそうだったとしても、今が底で、今後は改善していくのではという楽観志向(希望)も同時に持っています。

なぜなら、介護業界の問題も、日本学生支援機構の実質ローンの貸与型奨学金も、官製ワーキングプアについても、すべて政策で変えられることだから。

ちょっと楽観的に過ぎるかもしれないけれど、でもこの点で悲観的に突き進んでも意味がないのであえて言います。だって、これを放置してしまったら日本が衰退していくのは目に見えているのだから、ここ数十年の政策でうまくいかなかった部分を見直して、良心と良識のある政治家・官僚の皆さんが取り組んでいってくれると、いってくれないとと思っているし、実際それに立ち向かっている政治の流れも見えています。

だから市民は、この問題が改善するまで問題に目を向け続け、言い続けなくてはいけないし、それを受けたメディア、政治家、そして政治決定をする皆さんたちが、いくらなんでもそろそろ悪い部分は変えて行かないと。それができない国ではないと信じなきゃ出し、見続けなくては。

 

 

弱さを含め多様性を支える社会でないと 

 

「昨今の日本で貧困になるなんて、選択を間違ったか努力を怠ったかだ」みたいに、強い人たちは言うかもしれません。

 

でも第一に、この本を読んでてわかったのが、普通に真面目に働いていたり学生をやっていても、貧困に陥る落とし穴は至る所にあるということ。そして一度身体や精神を壊してしまうと、もう「がんばる」ことが物理的に無理になってしまう場合があるということです。

 

そして第二に、弱い(そうならざるを得なかった環境も含めて)人を社会全体で支える構造になってないとその社会は成り立たないし、いつ支える側の人が弱い立場になるかだってわかりません。ある時家族が病気になったり、自分が交通事故で障がいを持つことになったり、心を病んで仕事ができなくなったりした時に、それでも生活していけるという安心感があるということは、人が元気に働き社会生活を行う上で基盤であるべき、と心から思います。

 

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中村淳彦さんの本は「AV女優消滅」と「中年童貞」も読み、いつも苦しい日本の状況を見せつけられてつらいけれど、どれも知っておかねばという内容。

冷静に事実が淡々と書かれているけれど、読んだ人みんなが、この問題から目をそらせなくなる事実が入念な取材の上に書かれていて、この東京貧困女子。も期待にそぐわず新たな問題意識を抱かされました。